特殊紙の魅力 ― 紙を選ぶことはデザインを選ぶこと

はじめに

印刷の世界では「同じデザインでも、紙が違えば仕上がりがまるで変わる」とよく言われます。たとえば名刺。シンプルなレイアウトでも、スムースで落ち着いた紙を選ぶか、ラフでざらつきのある紙を選ぶかで、受け手の印象は大きく変わります。

紙は情報を伝えるだけではなく「体験」を届けるものです。見る、触れる、時に香りまで感じられる――まさに五感に訴えるメディアといえます。こうした紙の中でも「特殊紙」と呼ばれるカテゴリーは、一般的な上質紙やコート紙とは異なり、色・質感・加工・繊維などに特徴を持たせたものを指します。単なる印刷の土台ではなく、紙そのものがデザイン要素となる存在。それが特殊紙です。

特殊紙を支える二大メーカー

日本において特殊紙を語る際、欠かせない存在が竹尾と平和紙業です。この2社が揃っているからこそ、日本のデザインや印刷文化は豊かに発展してきました。

竹尾

1899年創業。NTラシャやマーメイドといった定番銘柄を世に送り出し、デザインの現場に深く根づいてきました。特に「紙見本帳」は体系的に整理されたバイブル的存在で、印刷会社やデザイナーにとって必携の資料です。また東京・青山見本帖や大阪・淀屋橋見本帖といったショールームを通じ、紙を実際に手に取って体験できる環境も整えています。

平和紙業

大阪に本社を置く老舗卸商社。東京・大阪・名古屋などで展開する「ペーパーボイス」ショールームでは、幅広いラインナップを展示し、地域密着型でユーザーを支えています。多彩な特殊紙の取り扱いに加え、展示やイベントを通じて「紙の魅力を直接伝える」活動を続けているのが特徴です。

今回は便宜的に竹尾のサンプル帳をベースに解説を進めていきますが、平和紙業にもサンプル帳やショールームがあり、どちらも特殊紙文化を支える重要な存在です。

特殊紙の役割 ― 印刷物に与える影響

「紙が違えば、印刷物は別物になる」。これは現場で日々実感することです。

  • NTラシャ:マットで落ち着いた質感、誠実さや堅実さを伝える
  • マーメイド:波打つエンボスがアート作品や詩集に柔らかさを加える
  • タント キラ:上品なきらめきで招待状やDMに特別感を演出
  • 里紙:自然な風合いで、食品やナチュラル系ブランドに安心感を与える

デザイン、加工、紙。この三要素が揃って初めて「記憶に残る印刷物」が生まれます。特殊紙は単なる背景ではなく、ブランドメッセージを体験として届けるための重要な要素なのです。

用途別に見る特殊紙の選び方

名刺

第一印象を左右するツール。厚みがあり、発色や質感で差がつく紙(NTラシャ、ビオトープGAなど)が人気です。

パッケージ

手に取ったときの質感が購買意欲に直結します。マーメイドやクラフト系の紙は、ブランドの世界観を触感で伝えられます。

冊子・カタログ

長時間手に取られる媒体は、読みやすさと世界観の両立が鍵。モフルやNBファイバーのようなラフ系やナチュラル系が効果的です。

DM・招待状

開封されることが第一目的。タント キラや箔守-FSのように、視覚的なインパクトを持つ紙が適しています。

サンプル帳とショールームの価値

竹尾の紙見本帳は「体系的に学べる辞典」。一方、平和紙業のペーパーボイスは「体験できる場」。両者の役割は異なりますが、どちらも欠かせません。

サンプル帳で体系的に理解し、ショールームで五感で体験する。この二つを組み合わせることで、デザイナーや印刷会社は紙を深く理解し、最適な選択を行えるのです。

彩匠堂での活用事例

弊社彩匠堂でも特殊紙を日常的に取り扱っています。

  • 名刺案件では、NTラシャやビオトープでシンプルでも質感で差をつける提案を実施
  • DM案件では、タント キラに銀箔を組み合わせ思わず捨てられない一枚に仕上げる工夫
  • パッケージ案件では、里紙やクラフト系でナチュラルブランドらしい世界観を表現

紙を変えるだけで、印刷物は単なる情報から「体験」に昇華します。

まとめ

特殊紙は印刷の世界を豊かにし、ブランドやデザインをより強く伝える手段です。竹尾と平和紙業という二大メーカーが支える土台があるからこそ、日本の特殊紙文化は発展してきました。

本COLUMNシリーズでは、竹尾のサンプル帳をベースにA〜Nまでのカテゴリを順に紹介し、それぞれの魅力を深掘りしていきます。ぜひ紙選びの参考にしていただければ幸いです。

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