改めて考える ― 菊四POD機・JetPress・オフセットの最適な使い分け

印刷の現場において「どの印刷方式を選ぶべきか」という判断は、単に用紙を通す工程以上に大きな意味を持ちます。選択を誤れば、コストが膨らみ、納期に間に合わず、品質にも影響が出かねません。当社では菊四POD機とJetPress、そしてオフセット印刷を並行して運用し、案件ごとに最適な方法を選択しています。
本記事では、印刷方式ごとの特性や強み・弱み、さらに実際の案件事例を交えながら、どのように判断基準を設けているかを解説します。オンデマンド印刷とオフセット印刷、それぞれの特性を改めて整理することで、印刷発注時の参考になれば幸いです。
オンデマンド印刷とは ― PODの基本
POD(Print On Demand)とは「必要なときに、必要な分だけ印刷する」仕組みを指します。従来のオフセット印刷では、刷版の作成や色合わせに多くの工程が必要でした。対してPODは、デジタルデータを直接出力するため、立ち上がりが早く、小ロット印刷に適しています。
当社では菊四POD機を中心に、名刺や封筒、小冊子といった少量案件、さらには成績表やDMのように1枚ごとに内容が異なる可変印刷まで幅広く対応しています。
菊四POD機の役割と強み
菊四POD機は、少量多品種の案件において最も効率的な選択肢です。
- 名刺100枚×数名分
- 封筒フルカラー1000枚以下
- 会報誌や会社案内の小ロット冊子
- 成績表など可変データを伴う案件
トナー方式で速乾性が高いため、即日納品などスピードが求められる場面で特に有効です。また、オフセットに比べ予備紙が少なく済み、特殊紙を使用する案件でもコストメリットがあります。
一般的には「1,000部を超えると不利」と言われますが、実際にはサイズや後工程を含めた条件次第で、あえて菊四PODを選ぶケースもあります。柔軟に対応できることこそ、PODの強みです。
JetPressの登場とその意義
富士フイルムが開発したJetPressは、オンデマンド印刷の枠を拡張しました。最大の特徴は「B2サイズまで印刷可能」であることです。従来の菊四POD機では不可能だった案件が、新たにオンデマンドの領域に入ってきました。
JetPressで実現できる代表的な案件には以下があります。
- B3二つ折りB4仕上がりの中綴じ冊子
- A2サイズポスター200部などの多品種・小ロット案件
- B2サイズのビッグブックや大判作品
- 色校正を重ねる色再現にシビアな案件
インクジェット方式により、写真やグラデーションの再現性が高く、発色の美しさは高い評価を得ています。ただし、完全な速乾ではないため最低限の乾燥時間は必要であり、当日納品など緊急性の高い案件には向かない場合があります。
オフセット印刷の役割と今後
オフセット印刷は依然として印刷の基盤を支える技術です。大量印刷や大判印刷では、コスト・品質の両面で優位性を持っています。
- 菊四やJetPressで印刷できない大判(B1など)
- JetPressでも印刷可能だが、大部数ではオフセットの方が安価な案件
- 網点再現はJetPressも高精細だが、用紙対応力ではオフセットが圧倒的
オフセットの弱点は、刷版を作成するCTP工程が必要な点です。これにより可変印刷はほぼ不可能で、小ロットにも不向きです。しかし、数千~数万部の冊子やチラシ、大判ポスターでは今もオフセットが最適解となります。
実際の案件事例
当社が実際に対応した案件を例に挙げます。
- A4サイズ、32P×4/4、中綴じ 100部 → 菊四POD機
- A2サイズ、片面フルカラー 200部 → JetPress
- A4サイズ、32P×4/4、無線綴じ 本機校正1回付き 1000部 → JetPress
- A4サイズ、32P×4/4、無線綴じ 3000部 → オフセット(色校正はJetPressやPODによる簡易校正を利用)
これらの事例から分かるように、単純に「部数」「サイズ」だけで決めるのではなく、後工程や納期を含めて総合的に判断しています。
三者の使い分け基準
当社では次の観点を基準としています。
- サイズ:菊四まで=POD、B2まで=JetPress、それ以上はオフセット
- 部数:数百部=POD/JetPress、数千部以上=オフセット
- 納期:即日=POD、標準納期で高品位=JetPress、大量印刷=オフセット
- 品質:可変・多品種=POD、色再現性重視=JetPress、用紙自由度=オフセット
ただし、これらはあくまで「基準」であり、全てを杓子定規に分けているわけではありません。案件ごとに条件を総合的に検討し、最も合理的な選択をしています。
今後の展望
オンデマンド印刷とオフセット印刷は、互いを置き換える関係ではなく、補完し合う関係にあります。市場全体としては、小ロット・多品種化や納期短縮のニーズが高まっており、PODやJetPressの役割は今後さらに拡大するでしょう。一方で、広告物や会社案内など大量に配布する媒体においては、オフセット印刷の優位性は今後も揺らぎません。
印刷会社として重要なのは「どの方式があるか」ではなく、「お客様に最も適した方法を提案できるか」です。当社では案件ごとに最適解を見極め、最良の品質・コスト・納期を提供することを使命としています。
まとめ
菊四POD機・JetPress・オフセット印刷は、いずれも特性が異なる技術です。
- POD=小回りと即納力
- JetPress=サイズと高品質表現
- オフセット=大量・大判・用紙対応力
どれか一つに依存するのではなく、案件ごとに最適解を選ぶ。その柔軟性こそが、当社が大切にしている姿勢であり、お客様に提供する価値です。